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風の谷の俺

(2008/09/07~)

さて、ついに「風の谷」に来たわけだが、さりとて特に何をするという目的があるでもない。
という訳で、雄大な風景を窓に映した一泊200ルピー(約300円)の部屋で、ダラダラと文章を綴る毎日が始まった。

ちなみに、こんな山奥にもインターネットがある。
まぁ、今時の旅行者を相手にするなら、ネットは必要不可欠な要素だろう。
ただ一つ特筆すべきは、ここのネット回線が電話線ではなく、サテライト(通信衛星)回線だという事である。
さすがにここまで引っ張った線を使うと、回線速度がどーしよーも無い事になるのだろう。

ちなみにこのサテライト・インターネット、速くて快適だと旅行者の間では非常に評判がよろしい。
しかし、実際に測定してみたところ、速度はネパールのポカラと同レベルだった。即ち、「ちょっと小粋なISDN並み」である。
彼らがここに至るまでに、いかに恐るべきネット環境を体験してきたのかは想像に難くない。

このようにITで遅れ、産業でも遅れ、政治も治安も不安定なのが、ここパキスタンである。
しかし、パキスタンは決して資源に乏しい国という訳ではない。
石油も出るし、海にも面しているので、むしろ立地条件は良いとさえ言えるだろう。
資源にも恵まれず、海からも遠いネパールとは比較にならない有利な立場にあるのだ。
だが、実際の現状はネパールとそう変わらない。

ネパールは観光立国としての方向性を明確に打ち出しており、旅行者が快適に滞在できるような環境作りに力を入れている。
ホテルにレストラン、バーやクラブ、ネット屋、土産物屋、旅行代理店などが供給過多なまでにひしめき合い、価格競争を繰り広げている。
まぁ、他に目ぼしいビジネス・チャンスが無いのだろうが、おかげで旅行者はさしたる不便も苦労も無く、安価でネパールを旅行する事ができるのだ。

逆にパキスタンはと言えば、泊まれる宿も美味い店も使えるネット屋も限られていて、それらを見つけるのにいちいち手間と時間と金が掛かる。
ただでさえ旅行しにくいのに加えて、しょっちゅうあちこちで景気良く花火が上がって死者が出ている。
おかげで先日、ついに国際赤十字連盟によって目出度く「紛争地帯」に認定されたらしい。
これでは旅行者だけでなく海外資本もますます敬遠するだろうし、そうなればパキスタンの国際化も発展も遅れるだろう。
魅力の多い国であるだけに残念である。

―――とまぁ、フンザにあまり関係の無い話題に脱線したので、ここできちんと本筋に戻り、フンザでの身近な物事について書いてみよう。

フンザの宿には今までにない変わった食事システムがあった。
名付けて「晩ご飯はみんなで食べようシステム」である。
・・・まぁ、我ながらウィットに富んだネーミングなので、おそらく読んでも何の事だかサッパリ分からなかったかもしれない。
そこで微に入り細にうがった説明をすると要するに、『夕食は、その宿の泊り客が、みんなで集って、一緒に食べる』というシステムである。

毎晩8時になると、往年のドリフターズさながら食堂に全員集合し、皆でフンザのコース料理に舌鼓を打つ。
大皿から自分の小皿にご飯やらカレーやら野菜やらを取って食べるのである。
食べ放題の飲み放題(お茶)で100ルピーだ。
ちなみにこの宿はベジタリアン・メニューが基本だが、たまにチキンカレーが出た時は+50ルピーが加算される。
まぁ、トリ肉に手を付けなければ100ルピーで済むのだが、目の前に出された肉に見て見ぬフリをするのは、なかなかに難しい事である。
しかし、食べ放題とは言っても、さすがに肉の量には限りがある。
とりあえず速攻で自分が食いたいだけ確保する、というインド式の作法をこの場で実践する勇気も無い。
かと言って、ちょっとしか食べてないのに、沢山食ったヤツと同じ料金を払うのは、お天道様が許しても江戸っ子の血が許さない。

赤の他人同士が食事をシェアするというのも、なかなか難しいものがある。
一度、「50ルピーって言ったらこれ位の量だよな」と自分の分を小皿に取ったら、どうやらそれで肉は終わりだったらしく、向かいに座ってたスイス人が汁だけ残ったお椀を哀しそうに見つめていた事があった。
その時はさすがに心が痛み、目をそらしながら急いで肉をかっ込んだものだ。
おかげで味などサッパリわからなかった。
後でとりあえず宿の若いのに、「余分に金取るんなら、もっと肉用意しとけ!」と逆ギレしておいたが。
何にせよ、その気まずい事件以降、チキンカレーが出た日の我が心中は、「手を出すか出すまいか」という葛藤で千々に乱れるのであった。

問題の本質は、そもそも宿のコックが一人50ルピー分もトリ肉を用意してない事にある。
ちなみにパキスタンではトリ肉は個々のパーツではなく、フルセットの一羽単位で売っており、一羽当たり大体200~230ルピーと言った所である。
しかし、このチキンカレーの肉、どう見ても一人分が四分の一羽には達していない。
何となく「ちょっと肉食わせてガッポリせしめよう」というセコい魂胆を邪推してしまう。
一応断っておくが、私は別に50ルピーのはした金をどうこう言っているのではない。
この「サービス少なめ料金多め」という歪んだ構図に、一消費者として断固抗議しているのである。

同志たちよ!!
文字通りトリガラのような肉を食わされて、我々はそれでも文句一つ言う事無く、ブルジョワたちの搾取を看過すべきなのか。
果たしてそれが誇りある旅人のあるべき姿であろうか?
否! 断じて否!!
我々は骨をかじる為にあえかなる時と数多の国境を越え、はるばるこの地へ赴いた訳ではない。
ましてや知性をかなぐり捨て、僅かな肉を巡り相争う醜態を演じる為でもない。
そう、正すべきはシステムなのだ。
この理不尽なシステムに対して、我々は地に膝つけず立ち上がるべきなのだ。
諸君! 今こそ民族・国家・宗教の垣根を越え、共に手を携えて、人類を蝕む邪悪と戦おうではないか。
ここに私は提言する。
旅人の、旅人による、旅人の為の、「肉よこせ運動」の開始を!!
ジーク・チキンッ!!

本日の真理:『食べ物は人を狂わせる。』

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