水は低きに流れ (3)
算数力アップのためには、まず計算力をつける必要がある。
私自身にとっても数学は鬼門であったが、教える立場になってみると、数学は英語と学習のポイントが似ていることに気付いた。
どちらも上達には、反復的な基礎練習がモノを言う。
基礎固めが出来ていないまま先に進もうとするから、途中で全く理解できなくなり、数式アレルギーになってしまうのだ。
ネパール人の数学への理解は、数学の苦手な私から見ても極めて薄っぺらい。
その為、基礎的な計算練習もまるで足りていない。
そもそもネパールには、ドリルも問題集も存在しない。
教科書に書かれたわずかばかりの問題しか、練習するものが無いのである。
そこで私は計算ドリルを日本から持参し、授業で使うことにした。
そうして分かったのは、クラス内で学力に大きな開きがあることだった。
クラスの半数以下の生徒しか授業についてこれない状況だ。
これはまさに進級試験がまともに機能していないことの現れである。
そこで私はドリルを使って、各生徒のレベルに合った練習を与えることにした。
その一方で私は、主に5年生の生徒を対象に、放課後の特別クラスを設けることにした。
見込みのある生徒が私立校へ進学できるように、受験対策をするためである。
目標は、ポカラのシャムロック・スクールへの入学だ。
シャムロック・スクールは、アイルランド系のビジネスマンが運営している非営利型の全寮制私立校だ。
総生徒数が70人ほどの小さな学校だが、学費も生活費も無料なので、毎年数百人もの入学希望者がやってくる。
しかし、一次試験の筆記と二次試験の面接を通過し、晴れて入学を許されるのはたったの十数人だけである。
そこに入るには普段の授業以外に、集中的な受験対策をするクラスが必要だ、と私は考えた。
放課後残って特別クラスに参加するかどうかは、完全に各生徒の自由だ。
残りたければ残ればいいし、帰りたければ帰っていい。
ただ1つだけ、私は生徒にこう約束した。
「もし、この特別クラスに毎日参加し、一生懸命勉強したなら、私立に行くチャンスをやる。」
初日、5年生の過半数が残って、特別クラスに参加した。
しかし、その数は日を追うごとに減っていった。
そんな生徒たちに対して、私は特に何も言わなかった。
一日二日、頑張ることは誰にでもできる。
だが、それをずっと継続するには、『確固たる動機』が必要だ。
それを見極めるために、私は「毎日参加すること」を条件にしたのだ。
ネパールで貧困層に生まれた者がそこから抜け出すのは、並大抵のことではない。
たとえ、この子供たちが私立校には入れたとしても、その先にはさらなる障害がいくつも待ち構えている。
それらを自力で乗り越えていく覚悟のある者に、チャンスは与えられるべきだと私は考える。
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